| 釣り師のコラム |
| Vol.2 香魚と呼べない鮎達 |
1998年 9月 |
香魚。それは西瓜のように甘くさわやかな香りのする清流の女王を、最も簡潔に言い表すことが出来る賛美の称号でしょう。
釣りたての鮎に顔を近づけると、西瓜のような香りがします。そしてその香りは、水のきれいな河川に育った鮎ほど強く、友釣りなどで竿を握っていても、川風に乗って西瓜畑にいるような香りが匂って来るものです。遡上鮎が多い年ほどこの傾向が強く、大水などで鮎が一カ所に溜まると、河原を歩いているだけで、鮎が居ることがわかるほどでした。
ところが、近年の鮎は川風に乗って西瓜の匂いが香ってくることは殆どありません。それどころか、釣りたての鮎を触っても香り立つ鮎が少なくなってしまい、鮎を鼻先に近づけない限り西瓜の香りを感じ取ることが出来なくなっているのです。この傾向はダム下流の鮎に多くみられ、流れ込む支流が少ない川ほど顕著に現れています。
これは香り高い鮎を育てるための苔が、ダムの下流では育ちにくいことを表しています。はっきりした原因は未だ解明されてませんが、ダムの止水により良質の苔を生育するための栄養素が沈殿し、下流に流れてこないのが原因ではないかと言われています。
sweet fishと呼ばれる鮎はその名の通り、甘い魚なのです。鮎を食する時、通の人はまず腑から食すると言います。そして本当に香り高い鮎の内臓は甘く感じるものなのです。しかし、ダムで寸断された川の鮎の腑は苦く、とてもsweet fishと呼べるものではありません。ですから、私たち、釣り師としては利用価値が減少してしまったダムについて、早急な撤去を切望して止まないのです。
ところが最近ダムのない川においても、芳香のない鮎が目立ち始めているのです。高知県下のある河川においても、上流に新興住宅が建ち、居住者が増えるに従って鮎の芳香は落ち、腑が苦く感じられるようになってきました。この川の鮎はつい近年まで香魚と呼ぶにふさわしく、川風の向きによって鮎の芳香が感じられていました。ところがこの4,5年前から香りのしない鮎が多く見られるようになってしまったのです。これは、私たちが何気なく使用している、洗濯や食器の化学洗剤及び漂白剤によって河川の環境が壊れているほかありません。
あなたがもしも、天然鮎の腑は苦みのあるものだと言う認識を持っているのなら、それは全くの誤りで、その苦みは、川の嘆きだと理解していただきたいものです。
香魚を育てることの出来る河川。そして其処に住む清流の女王と呼ばれる鮎。この賛美の称号はこのままでは数年のうちに消えてしまうでしょう。
今こそ、河川や生活周りの水が危機的な状態にあることを、多くの人に考えていただきたいものです。

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