| 釣り師のコラム |
| Vol.3 香魚と呼べない鮎達 || |
1998年10月 |
鮎釣り師達に「何処の鮎が旨いか」と聞くと、殆どの人が「おらの川の鮎が一番旨い」と言います。それは、慣れ親しんだ川への愛情と想い入れが、その答えを引き出しているのだろうと思っていました。
しかし、鮎は同一河川内においても上流、下流の場所の違いや、初期中期後期それぞれの時期の違い、そしてその年の天候などにより、香りや味は違ってくるのです。それゆえ、「おらの川の鮎が一番旨い」時期を知っている人のその言葉には信憑性があるのです。
しかし、いくら時期や天候を選んだとしても、川そのものが病んでいてはどうしようもありません。
一般的にダム下流の鮎については、ダムが出来て5、6年で水質が悪化し鮎の芳香は消えてしまいます。ましてや数基のダムで寸断された河川では、香魚と呼べる鮎は育つことはありません。
ダム上流については、海から自力で遡上する鮎は無く、ダム上流に直接稚魚を放流しています。このため遡上期に鰭があまり発達せず、泳ぐことの苦手な鮎が多くなります。そんな鮎は大きくなるに従い身の柔らかさが目立ち、通称「水鮎」と呼ばれる水っぽい鮎になってしまうのです。
さらに上流の流量が少ない細流については、広く泳ぎ回ることもなく運動不足の鮎が目立ちます。
それではこのような河川環境の中で、どこに行けば香魚と巡り会えるのでしょうか。四国の河川を例にとり、私なりの香魚と出会える河川を推薦してみました。
6月、山々の新緑が映える頃の若鮎、このころの天然遡上鮎はほのかな香りがあって「恥じらいの香魚」と呼びたくなります。そこで流量が少なくても直接海へ流れ込んでいる河川の安田川、新荘川、野根川、伊尾木川、松田川などの中下流域で天然遡上に出会えれば最高です。
7月、梅雨明けが夏本番を告げる頃の鮎、香魚と出会う確率が一番高いのがこの頃です。流量は少なくても水の綺麗な河川ではその確率は高くなります。但し、身が柔らかすぎる事もあるので、小ぶりの方が食味も良いようです。私の好きな、安芸川、土居川、小川川、長者川、面河川、槇山川、海部川、海川、南川などの上流部は今も香魚と呼べる鮎を育んでいます。但し、全ての鮎ではない事が残念ではありますが。
8、9月、真夏の太陽を十分に浴びて精悍さがにじむ頃の鮎、流量が多い河川ほど鰭が発達し、身が引き締まって素晴らしい鮎になります。ですが、残念なことに流量の多い大河川には、ダムや水質の問題が絡んでくるので、食味の良い鮎は殆ど希少価値的になります。その中でも時期の前後はありますが、北川川、上八川川、四万十川、銅山川などが香魚をかろうじて保っていると言えるでしょう。
但し、現在の四万十川における河川状態では、8月頃の鮎は高水温、低水位によって、夏バテをするので良い鮎ではありません。9月の声を聞き水温が下がり始める秋期には良型が出始め、彼岸花が咲き初める頃には夏バテもとれ、艶やかな鮎が戻ってきます。
上八川川については、高知県における天然遡上鮎が唯一紡錘形と成り、鰭も良く発達し、香り味とも絶品ですが、網漁としゃくり漁が同時解禁のため、わずか数日で取り尽くされてしまいます。わずかな漁法制限区があるものの、7月終日にはその制限も解かれ、わずか1日で取り尽くされていまうという情けない話です。高知県下の河川は底石が大きく、流量があり、また水の透明度が高く、良い鮎が育ちます。しかし、透明度が高いほど、網や金突き、しゃくり漁などの大量捕獲も行われやすく、良い鮎は数日でいなくなるのが現状なのです。
その昔、献上鮎として珍重された吉野川、奈半利川の香り高い大鮎達が、この両河川にダムが無かった頃、1尺以上の魚体を乱舞させていた様を思い出深く語ってくれる初老の釣り師がいます。つい2,30年前の話なのに、今では夢物語となってしまいました。私たちがこの献上鮎という尺上の香魚に逢う術は全く無くなってしまったのでしょうか。
早明浦ダム、池田ダムの二つのダムや柳瀬ダムに並ぶ四国の水瓶達は大自然の犠牲の上に出来ているのでしょか。私たちがこのまま、何も言わなければ、さらに20年後には家庭排水と沈殿泥によって「その昔、鮎という魚は食べることが出来たそうだ。今は夢物語になってしまったけど・・・。」となっている可能性は高いのです。

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