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コラム

釣り師のコラム
Vol.4  渓流の心 1999年2月

 立春を過ぎて春がやってくるのかと思っていたら、全国的な寒波に見舞われ、室戸や足摺岬に咲き始めた椿が雪に震えている映像がテレビから流れていました。
真っ白な雪景色の中にポツリ、ポツリと顔を出している真紅の椿、その花を寒さから守るように包み込む緑の葉、何ともいえない美しさに感動を覚えました。
 そんな豪雪の中、2月1日より愛媛県の一部ではあめごが解禁となりました。高知県では3月1日が解禁日となります。私は3月になると渓流釣りをします。
そして6月より10月までは鮎釣りをして鮎禁漁と同時に磯や筏にと年中魚を追いかけています。

「渓流釣りとはなんぞや?」と言う人のために少しだけ説明をします。
 川の上流部、主に渓流と呼ばれるところでアマゴ(高知県ではアメゴ)やヤマメ、ゴキ、イワナ等のマス科の陸封魚を対象として釣るのを渓流釣りと言います。
この釣りのすばらしさはなんと言っても自然の中に身を置くことです。もちろん磯や鮎釣りだって自然の中に身を置くことには変わりないのですが、やはり人里や文明の囲いの中から抜け出している気がしないのです。かといって渓流釣りが人里離れた山の奥ばかりかというとそういう訳ではないのですが、この釣りをしていると何かの時にふ〜と背中の毛の一本一本が逆立ってくることがあるのです。

 それはうっそうと繁る木々の中にある滝壺に出会ったときや、風や石などの音に体が防衛反応を起こしてしまい、人も自然の中では一匹の動物にすぎないこと思い知らされたときに起こるのです。
 背中の毛は周りの気配を察知するために逆立ちし、普段は聞こえない音まで聞き取ろうと耳の穴が開く。それは人としての神経より、自然の中で生息してきた太古の神経が甦り、動物としての本能が優先しているのです。そんな状態で自然に対して恐怖を抱きつつも、氷河期より棲息する幻の魚に出会うために竿を振る。身を切るほどに冷たく澄みっきた水の中から宝石のように美しい魚体が現れ、研ぎ澄まされた神経がその美しさに触れたとき、この釣りの魅力がはじけるのです。

 昔、人々は山や森、水や滝にまで神々の存在を信じていました。それは人間が森や山に生かされている事への感謝の気持ちであり、そしてそれらは決して越えてはならない崇高な領域だったはずです。だからこそ何万年の時の流れを映してきた水辺は今も其処にあり、訪れる私たちの心のわだかまりや煩わしさ全てを洗い流してくれる、そして、山がこの水辺を守ってきてくれた事への感謝の気持ちが自然と湧いてくるのです。

 ところが私達はいつしか神を越えて自分自身が神になってしまいました。水を止め木を切り倒し、山の石を削り砂防ダムを造る。山を歩いていると「何故こんな処まで」と言いたくなるほど砂防ダムや護岸工事で覆われています。
 本当にこれほど多くの工事が必要なのでしょうか?
 水をせき止めダムを造り、そのダムに土石流が流れ込まないように砂防ダムで守る。その砂防ダムがいっぱいなったらまた砂防ダムを造る。川べりの石が流れないように護岸で固め、下流では砂利や石が流れてこないため川底の浄化はなくヘドロが堆積する。堆積したヘドロの水はおいしくないため、高いペットボトルの水を買う。
 どこかが狂ってはいませんか?
 「山の岩が崩れ、川を流れて行き、海に堆積する」と教えられたような気がしますが、どうも最近は違っているようです。

 このような中でのほんの少しの救いは、自然はまだ回復するための力を少しだけ残している事です。
砂防ダムや護岸工事でえぐられた山肌は長い年月のうちに土砂で埋まり、その上を木々や草が覆い、大小の岩の透き間を水が流れてゆく。自然は私たちが手を入れなければ確実に回復をしているのです。
 しかし、自然の治癒力は遅く私たちの開発の力は早い。無駄な開発はできるだけ行ってほしくないものです。

 渓流釣りは心の釣りです。シャクリッ、シャクリッと霜柱を踏みしめ、雪解けの風と春の息吹と感じながらゆっくりと山道を降りてゆくと、残雪を割って出た、ふきのとうのつんとする香りが春の訪れを告げてくれます。
 私は今年もまた川を渡り、岩を上り、木々をかき分け水中の宝石を求めて渓を訪れたいと思っています。



Copyright (c) 1998 by 高知県友釣連盟会長 内山 顕一 
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