ぼさぼさの金髪、低い声、笑い声も低い。動作はゆったりとしているが、無駄がない。美人とは言いがたいが、年を重ねてることにより、ますます素敵になっているように見える。久しぶりに、彼女がテレビの画面に帰ってきた。
「カリスマ主婦」、という言葉を日本人男性から聞いたときには、驚いた。アメリカのテレビでひっぱりだこだったころの、マーサ スチュワートは、日本ではこう呼ばれていたらしい。
主婦、それはとても厳しい職業だ。給料は出ない。下手をすると、家事をしていても家族から当たり前だと思われ、感謝されることも少ない。そういう環境だから、手を抜こうとすればいくらでも抜ける。しかし、それをとことん突き詰めて楽しく仕事ができれば、人を幸せにでき、楽しく暮らせる最高の仕事。私の母はそう言っていた。
しかし、頭で分かっていても、なかなか家事を「素敵な暮らし方」にまで昇格させるのは至難の業だ。それを、見事に雑誌とテレビでやってのけたのが、マーサ スチュワートではないかと思う。
以前は腕利きの証券ブローカーとして鳴らしていた彼女は、結婚後、ケータリングサービスを始める。その後、料理の本の発行を皮切りに、゛Martha Stewart Living゛という雑誌を発行し、その後もさまざまな雑誌や本を出版し続けている。アメリカの料理の本といえば、文章ばかりの本が当たり前だったのだが、彼女の本は写真をたくさん使い、説明文だけでなく、視覚からの情報も大切にしている。これはそれに続いて発行された雑誌にも受けつがれ、また彼女のサイトでも同じようにたくさんの写真が使われている。シンプルでかつ、お洒落な生活が四角い写真にうまく切り取られている。カントリーほど甘すぎず、かといって突き放すほどシンプルでもない。色も、単純な色は使わずにちょっとひねってある。どの本を見てもやはりセンスの良さに脱帽してしまう。
彼女が手がけるのは、本当に家事全般だ。料理、園芸、飾りつけ、収集、家の修理やペンキ塗り、お客様を呼んでのおもてなし、と、多岐にわたる。雑誌では写真をふんだんに使い、その情報が提供されているし、Webサイトでは写真だけではなくビデオを使い、テレビ番組とリンクさせながら彼女が使っている品物のショッピングもできるようになっている。彼女が先日刑務所から出所したときに着ていたニットのポンチョも、同じデザインのものが色違いで売られている。
彼女が刑務所に入ったいきさつは、インサイダー取引とそのもみ消し行為が発覚し、2004年7月に5ヶ月の実刑判決を受けたからだ。この時点でCBSは番組を打ち切り、雑誌の広告主もほとんどが手を引いてしまったという。ここで、世間が驚いたのは、上訴すれば判決の出るまでの2年間は服役せずにすみ、また実刑にはならないだろうといわれていたにもかかわらず、彼女が実刑のほうを選んだということだ。ついていた弁護士が、イメージ戦略のために入所するシナリオを勧めたといううわさもとんだ。刑務所ではトイレ掃除をしたり、ヨガ教室を開いたり、という様子がマスコミを通して流れてくる。効果があったのか、一時は、下がっていた彼女の会社の株価も、順調に伸びているという。
テレビの番組で取り上げられるのは、パンケーキの作り方や、シャツの正しいたたみ方、など、基本中の基本と感じるものが多い。スタジオの観客の前で、マーサがセレブと呼ばれている芸能関係の有名人と一緒に家事をするのだ。冗談を言いながら、会場の女性たちを笑わせているマーサ スチュワートを見ながら、外で仕事をし、家では最短の時間で家事をしなければならない母親たちは、娘に家事を教えるなどという悠長なことはできず、だからこそ家事がビジネスになる時代なのかもしれないと考えていた。
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