お気に入りのFM局から、ケニー・Gの滑らかなサックスが流れるようになった。彼の曲はホリディシーズンによく似合う。
アメリカではハロウィーンを皮切りに、感謝祭、クリスマスという二大イベントが繰り広げられる。ユダヤ教を信じる人たちはクリスマスのかわりにハヌカを祝う。一年で一番街が華やぎ、人々が忙しいが幸福に満ち溢れたような顔をしながら買い物をする時期でもある。
では、今回は感謝祭について、ちょっとお話してみよう。
感謝祭とは、初めてアメリカに入植したピルグリム・ファーザーが移住後初めての収穫を神に感謝したことから始まった。木曜日から日曜日まで開かれた祭典には、インディアンも招待され、七面鳥や鹿肉のご馳走が出されたという。
この風習は、初めはピューリタン中心に祝われていたが、その後ワシントン大統領により、国民の休日になった。今では11月第四木曜日がこの休日にあたる。
感謝祭は、日本でいうとお正月のノリなのである。
まずは、あの広いアメリカ大陸に散らばっている人たちが、一斉に移動を始める。両親の家、兄弟の家などに血族が集結するのだ。
クリスマスは、核家族単位で祝うという。そのかわり感謝祭はできるかぎりの親戚が一個所に集まりお祝いするのだ。
感謝祭の数日前から、空港は物凄い人数の乗客で溢れかえる。床が見えないぐらい人がわんさといるのだ。毎年、疲れきった人の写真が新聞のトップを飾る。飛行機のチケットを取るのも大変だと友人が話していた。
飛行機がとれなかった人の移動手段は、自動車しか残っていない。アメリカでは日本のように電車が発達していないからだ。そのフリーウェイも、もの凄く混む。全ての人が、自分の故郷に帰っていくのだからしかたがないにしろ、普段では考えられないほど混むのである。
しかし、感謝祭の朝などは、その狂想曲がまるで嘘だったかのように静かになってしまう。日本の元旦のようだ。アメリカの元旦なんて、店はもう開いていたりする。だから、感謝祭の朝は、日本の元旦にとても似ている。
まずは店が開かない。スーパーなどやっているところもあるが、午後6時頃には店じまいをする。家族揃ってのディナーを楽しむのが感謝祭なのだから、店もそれにあわせて閉めてしまうのだ。
さて、一族郎党が首を揃えた家では、女たちが料理を作る。
日本ならお節料理だが、アメリカ人は、何を食べるのだろう。
まずは、七面鳥。ターキーといわれる大型の鳥だ。これをオーブンで丸焼きにする。鳥の腹の中には詰め物をするが、各家庭で何を入れるかは様々なのだそうだ。日本でいえば、家ごとにお雑煮が違うのと一緒だろう。ブラウン・ライスや栗、肝臓などの内臓を入れると聞いた。
次は、スパイスを効かせたパンプキン・パイ。それからオレンジ色のサツマイモをつぶしたマッシュド・ポテトにクランベリー・ソースが最低ないと駄目なのだそうだ。
七面鳥は、とても大きい。
オーブンで焼くのも数時間かかるだろう。また、料理上手の友人が言っていたが、肉を柔らかく焼くなら低温で時間をかけてゆっくり焼かなければならないそうなのだ。
男たちがワインやビールを飲んで浮かれている間、女たちはせっせと料理を作る。どこの国でも、こういう傾向はあるに違いない。女の私からすると、面白くない役回りだ。
料理ができたら、家長がその七面鳥を切り分ける。アメリカでは肉や鳥の丸焼きを取り分けるのは父親、つまり家長の大切な仕事なのだ。その後は、飲んで、食べて、また飲んで食べて、という生活が延々と続くのだ。
料理の種類が少ないのに、よく厭きずに食べられると感心してしまう。そこが、アメリカ人の味覚の大雑把なところなのだろう。
さて、じっくりと七面鳥を焼く間、何をしているのかと友人に尋ねた。
「そりゃあ、カタログを見てるのよ。」
と、私の友人は鼻に皺を寄せて笑った。
感謝祭が明けた土曜日からは、どのお店も感謝祭クリアランスセールをやる。かなり値引きする。一年間お金を貯めて、この時期のセールに大物を買うという人もいる。
それに、そんな顧客を店のほうも煽ってか、感謝祭の朝に投げ込まれる新聞には、薄めの電話帳ぐらいの量の広告が入っている。フルカラー写真入り、どこかのマガジンみたいに手のこんだものもある。
このクリアランスセールだが、広告のせいもあって、朝一番にショッピング・モールに出かけないと駐車場のスペースが無いという事態に直面してしまう。みんな考えることは一緒なのだ。良い品物を買うには、早起きして開店前に車を停め、お目当ての店の前で待機するらしい。この話を聞いて、物凄い意気込みを感じて、私はたじろいでしまった。
「主人に運転してもらって、翌日はたっぷり買い物するのよ。」
そう、掃除と料理で家に缶詰になった女性たちは、今年も翌日のバーゲンを夢見ながら七面鳥を焼くのだろう。 |